人文学部


角田俊男 教授


角田 俊男(つのだ としお)

■略歴

 本学の人文学部英米比較文化学科の皆さんと同様に、英語圏地域の文化と社会を広く勉強する学科で、英語、歴史、文学、社会科学などを学びました。ちょうど従来の西欧への見方からの修正が説かれるようになり、その頃が英米文化研究の1つの転換点でもあったように記憶しています。さらに地域文化研究の大学院に進み、他の分野や地域を専攻する方たちの話も聞きながら、主に歴史や思想史を研究しました。その後、経済学部で英語の授業や文化論などを担当し、現在こちらで教えております。

■主要著作・論文・研究活動など

1.「ヒュームの情念論と判断力――『人間本性論』を通して――」、『経済研究所研究報告』、22号(1999年)、1-48頁。
2.「啓蒙の趣味論と古典古代の道徳――ヒュームの判断力の射程――」、『経済研究』、147号(1999年)、121-140頁。
3.「ヒュームの懐疑主義と日常生活――政治における合理性の問題――」、『経済研究』、151・152号(2001年)、151-185頁。
4.「周縁にとっての主権と商業――ブリテン、ヨーロッパの公共空間を開くヒューム哲学――」、『経済研究所研究報告』、32号(2002年)、1-65頁。
5.「コモン・ローと東インド会社総督ヘースティングズ弾劾」、『経済研究』、159号(2003年)、311-348頁。

■専門・所属学会・その他前年の主要社会活動

 政治統合や帝国支配を通した英語圏文化の世界的な展開を歴史的文脈として、啓蒙思想を中心とした近代の英米思想史、文化史を研究しています。啓蒙思想は宗教戦争への反省から普通の人々の日常生活の改善を目的として、経済の発展と学芸の進歩による文明化を構想しました。これらの考えはサロンやコーヒーハウスのような公共の場を通して広められたのです。啓蒙思想の具体的な成果は、例えば、アメリカの独立宣言やその後の連邦憲法、また独立宣言と同じ年に刊行されたスミスの『国富論』に代表されるスコットランドの経済学などに見られます。
 
ここは研究の特殊な詳細よりも現在と結びつけてその一般的な意義を学生の皆さんにお伝えする場でしょうから、そうした意味があるとすれば、次の二点になるかと思います。第一に「世界標準」と文明の特殊な価値の衝突が深刻な問題となっていますが、近代化を求める普遍的な啓蒙運動と「周縁」地域の慣習的制度との関係はこの問題に関連性があり、世界的なものと地方的なものを結びつける可能性を示唆します。次に啓蒙思想の夢は生活必需品の豊かな供給により人々が貧しさから解放され、人前で服装を恥ずかしく思い公共の場に参加するのをためらうということもなくなることでした。ここに私的幸福が公共的活動を支えるという理解を見ることができます。国家や神のために個人を犠牲にするのとも自己中心主義とも違う公私の関係を構想する何らかのヒントを啓蒙思想から得られないかと考えています。
所属学会
イギリス哲学会、日本アイルランド協会、社会思想史学会、18世紀学会

■メッセージ

「英米文化」と「英語圏文化」に関する授業では、英語圏の現代文化・社会について広く興味深い風物、制度を紹介して行きたいと思います。ハリー・ポッターやピーターラビットの物語の背景にどんな自然風土と歴史伝統が広がり、またどこにどんな都市があり、そこではどのような食文化や行事・余暇活動を楽しんでいるのかなどを知ることはそれ自体面白いことです。皆さんが今後文学作品に触れたり実際に旅行したりするときに楽しめるよう、授業が何らかの役に立てばよいと思います。さらに、授業で触れる現代社会の現実諸問題は日本も含めた先進工業国に共通の問題でもあるので、問題意識をもって自分の生活と社会のつながりを考えるきっかけになればと思います。また同時に英米に関心を集中させるのではなくて、英米文化を理解するためにも、その他の地域にも関心を広げて欲しいと思います。
 
人文学部や地域文化研究という呼称は、専門分化の傾向に抗して、複数の分野にわたる総合的な学習の可能性を示唆します。例えば英国人の間にはカントリーハウスの保存やガーデニングのような田園への愛着・郷愁が見られますが、そうした田園への郷愁が経済の衰退の文化的遠因となったという説明があります。また民営化・規制緩和など自由市場により経済の再生を目指す政治は、どのような結果を教育や福祉など人々の生活や文化にもたらしているでしょうか。さらにそうした世界資本主義に対抗するナショナリズムの主張はどのような「国民文化」の虚構に基づいているのでしょうか。英米文化研究は多様な分野に開かれているため、学んだことがともすれば取りとめもなく、ばらばらになる危険がありますから、自分で関連づけて体系的に理解するように注意してください。
 
私は英語の授業も担当しますが、かつて人文主義は学生に語学力を身に付けさせて就職市場で高い価値を付与したそうです。公務に携わる貴族にとって手紙や演説の代筆者、対外交渉役、子弟の教育係として人文主義者は必要だったのです。英米比較文化研究にとって語学力は手段であるとともに、諸学の総合としての雄弁術という意味では目的ともなるでしょう。皆さんも外国語の運用力を伸ばし、さらには自己表現力や、言葉の背後の意味を見抜く判断力を高められるよう期待します。もちろん英米文化の知識や英語力が、皆さんの生にとって、ある意味では必要かもしれませんが、本質的に重要であるとか、それだけで十分であるとか言うことはできません。